ひとびとのひび 〜いろんなまち いろんなしごと いろんなひと。な、日々。〜

デザイン事務所ってそうなんだ?

企画から丁寧に立案し、「らしさ」をプラスしつつ課題解決へ導くお茶目なクリエイティブ集団。

Interview
H.Sさんの事務所に行って
いろいろインタビューしちゃいました!
子どもの頃から絵を描くのが好きで・・・
母親が良く似顔絵を描いてたからですかね。

 


現在のグラフィックデザインというお仕事のルーツはどこにあったんですか?

たぶん、母親の影響で子どもの頃から絵を描くのが好きだったことが大きい気がします。うちの母は少女漫画というか···ちょっと目のぱっちりとしたタッチで人の顔なんかをよく描いていたんです

それを見ていて子供心に上手だなぁって思っていて···いつの間にか自分でも描くようになりました。

ヒマさえあれば似顔絵とかを描くのが趣味になっていました。高校生のときは自由課題で絵本を書いたりしていましたね。



では高校を卒業してすぐグラフィックデザイナーに?

いえいえ、絵を描いていたといっても、それが直接就職と結びついていたワケじゃありませんでした。

職業としては自分でも何をしたいのか···まだまだ漠然としていましたね。

とりあえずファッションが好きだったことから洋服づくりへの憧れがあったので高校を卒業してすぐアパレル業界に就職しました。

なるほど。そこで何年か勤めるうちにデザインに目覚めたと?

すいません、アパレルはすぐ辞めました。女優さんとかが着てるくらい結構有名なブランドだったんですけど・・・スタイリストさんとかに言われるがままにボクら新人が倉庫に探しに行くんです。

でもボク実はニットのアレルギーがありまして(笑)
倉庫に行くたびにアレルギーで体中かゆくなるのが我慢できなくて、辞めちゃいました

不思議なことに、似顔絵がきっかけで
グラフィックデザイナーの道へ進むことになりました。

 
アパレルからデザインの世界に行ったワケじゃなかったんですか?

ええ。アパレルを辞めてからはいろいろなアルバイトを転々としていました。

夜のサービス業的なことも結構やりましたね。(笑)
でもいい加減就職しなきゃとも思っていました。

そんな時に声を掛けてくれたのが、とある印刷屋さんでした。20歳くらいの頃ですかね。

でもその時はデザイナーではなく、営業に近いようなポジションで仕事をしていました。
その会社の取引先にはデザイン会社や広告代理店がありまして、そのご縁で、後に小さな広告代理店へ移ることになったんです。

それから広告代理店で働き始めたんですが、どうしても社内の内線番号と社員の顔が覚えられなくて・・・得意の似顔絵を描いて電話機に貼っていたんです

すると、それを見たクリエイティブ部の人たちから、キミならデザインできるんじゃない?と声をかけられ、それがきっかけでデザイナーの道へ進むことになったんです。

順風満帆のデザイナー人生かと思いきや
自分の愚かさのおかげでふらふら行ったり来たり。

グラフィックデザイナーになってからは順風満帆だったんですか?

いやぁ〜そんなことはありませんよ。

ボクがデザインを始めた当時は、アップルのMacが業界的に普及しはじめた頃だったんですが、まず使い方から憶えなければならないので、外注でお願いしていたフリーランスのデザイナーさんに教わりながらやっていましたからね。(笑)



デザイナーとして何か失敗したこととかあるんですか?

デザイナーになって数年経ち、25歳くらいになった頃から会社が忙しくなってきました。

当時は看板とか、いわゆる自動販売機の周りの装飾デザインとか、その他にも色々とやっていたんですが、とにかく仕事がどんどん舞い込んできていたんです。

それを若かりしボクは「これなら独立すれば儲かるに違いない!」と思いこんでとっとと退社してしまいました。

でもそれが運の尽き・・・独立してみたものの全く仕事が来ず、またアルバイト生活に逆戻りしてしまったんです
会社が忙しいことを、自分が忙しいんだと勘違いしていたんですね。



また夜のバイトに??

はい。(笑)
仕事がないのでしょうがなく飲食店でアルバイトをはじめたんです。

でもそのお店は売れない役者とかコピーライターや芸能レポーターの卵とか、当時全然知らなかったWebデザイナーとか、そういう職業の人たちが常連客として集まるところで・・・ですから、たまに舞台のパンフレットやポスターの制作なんかを頼まれたりもしていました

もちろん、それで食べていけるような金額ではありません。

そんな生活がしばらくつづいた頃、店の社長から「お前が責任者ということで新店舗を出さないか」と持ちかけられたんです

アルバイトとはいえ真剣にやっていたので、結構お客さんも付いていましたし。ボクなりにかなり迷ったんですよね。

ちょうどそのタイミングで母親が亡くなったり、ボク自身が病気で入院することになったり、不幸なことが重なっていたこともあって。

でも、迷った分だけ色々考えることができました。

お店に来ていた常連さんたちはいつの間にか成長して一人前になっていって・・・でも自分だけは未だに飲み屋のアルバイトで、デザイナーへの気持ちも宙ぶらりんで・・・

ところが「いや、今ならまだ戻れる!」と思ったボクは、すぐに社長に辞める意志を伝え、デザイナー志望としてあちこち面接に走りました。

そこで拾ってくれたのが、流通業界の折り込みチラシなんかを主に制作している会社でした。

いわゆるデザイン事務所に就職が決まり、なんとかデザイナーに復帰したワケです

才能のなさを痛感しながらも
頑張れば頑張るほどデザインに夢中になっていきました。

流通業界って、スーパーとか百貨店とかですか?

そうですね。皆さん新聞の折り込みチラシは一度くらい見たことあるかと思いますが、チラシづくりはとにかくたくさんの情報を分かりやすくまとめなければならない仕事です

ギャラは良かったですがとっても大変でした。

でもそれが自分にはすごく楽しくて、最低でも5年間は続けようと決めてやり遂げました。

ただ、最初は代理店の人たちに結構ひどいことを言われていましたね。

「デザインができない」
「誰だこいつ?」
みたいな。

当時ボクはすでに29歳になっていましたので、まわりの先輩が年下だったりしたんです。
だから早く彼らを越えたいワケです。

そのためには彼らの何倍もやらなければと思い、仕事も勉強もやりまくりました。

そうしているうちに、代理店の人たちからも、よりクリエイティブで、クオリティの高いデザインを求められる仕事を与えられるようになっていきました

チラシ作りというのは、パズルのようにスペースを埋めていく作業という感覚だったんですが、白いスペースにたった一言だけキャッチを入れるような、いわゆるデザインの仕事はとても高度で難しくて・・・

やってみたら自分の才能のなさを思い知らされました。

今だったら迷わずココ!って置いちゃったりすることも当時は全くできませんでした
それなのにデザインが楽しくてしょうがなくなったんですよね



そのあたりから本当の意味でデザインに目覚めていったんでしょうか?

かもしれません。次はもっと幅広くデザインの仕事をやっている会社に行きたいと思うようになっていました。

それで会社にも黙ったまま就職活動を始めちゃったんです。(笑)

そしたらすぐ受かっちゃって・・・慌てて「まだ今の会社に辞める意志を伝えていないので3ヵ月待ってもらえませんか?」と正直に話しました。

そうしたら「待つよ」と言ってくれたので、きちんと会社に説明して3ヶ月後に晴れて新しい職場へ移ったんです。

新しい会社ではどんな仕事を?

その会社ではデザイナーの一部のメンバーが取引先の会社に出向していました
出向先には仕事がわんさかありましたので。

でも、ボクは行くなと言われていました。

それよりも、社内の若い20代のデザイナーたちを育てる役割を与えられたんです
すでに30代半ばになっていたので、デザイナーというよりアートディレクターとして入社したようなイメージですね。

そこで、それまで一人一人が個々に担当していた仕事を一旦ボクが窓口となって、それから各自に振っていくという流れがつくれるようにしていきました。

まぁそのためには、そうした方が良いと、短期間のうちに実力で会社を納得させる働き方が求められますが。(笑)

出向組に負けないように、厳しい中にもスタッフ感の信頼関係を構築。

納得できる成果を出してから退社へ。


どんな風に若手デザイナーたちを育てていったんですか?

育てるというか、とにかくみんな仕事の仕方が甘くて・・・しかもバラバラだったんです。向上心も低くて。

逆に出向していたデザイナーたちは意識の高い人ばかりでした。
出向先の会社には大手の広告代理店からの受注があふれていましたので、新しい仕事やクリエイティブな仕事が多かったんですよね。

そこで、ボクらは出向せずに彼らと同じようなレベルの仕事をしようと思いました。

当時うちの会社は、若手こそ未熟な人は多かったですが、ディレクターたちは熟練していて出向先にも認められている人材が揃っていました。

ですから出向先からもそこそこ良い仕事はもらえていたんです。

ってことでボクが出向先へ打ち合わせに行って、それを持ち帰って切り口を考えるところから若手たちにやらせる、ということを実践していきました。

それまでのオペレーター的な仕事の仕方から脱却してほしかったんですよね。



その結果どうなったんですか?

そのやり方についてこれない人には、率直に辞めることを勧めました。逆に応えられる人は、本人が辛くて辞めたいと言っても思いとどまらせましたね。

そういう人は自分の成長を実感すると、ある時から目がキラキラしてくるんです

で、えてしてそうなった人に限って、次のステップが見えてきたりもするので・・・そうしたタイミングではじめて、辞めたくなったんなら辞めてもいいよと伝えるようにしていました。

結果的には、辞めることを勧めた人も、本人が納得して辞めていった人も、どちらも仲良くさせていただいています

ボクがフリーになった時は真っ先に彼らに仕事をお願いしましたしね。
そうやって若手といっしょに会社をもり立てていこうと思っていた頃から、ボクと上司の方々と意見の合わないことが増えてきて・・・特に給料とか(笑)

2度目の独立をしてからは、仕事が順調に増えていき、
法人化、そして、ともに働くスタッフを採用することに。

 

ディレクターとして勤めた会社を辞めたということは、いよいよ独立ですか?

結局その会社で4年ほどお世話になり、退社して37歳のときに独立しました。2度目の独立ですね。

1度目の時は仕事が全くこなかったけど2回目は違いました。

予想以上に仕事が来すぎて・・・本当は3〜4年フリーランスでやってから法人にしようかと思っていたんですが、あまりにも仕事が増えてしまったので2年で法人化しました。

そこで、前の会社を辞めていった人たちにお声がけして助けてもらったんです。
それでも仕事が増え続けていったので、募集広告なんかを出してみたりしました。

過去の失敗から学んだこともあり、その時はある程度仕事がもらえる算段がついていましたから、会社ではなく自分自身に仕事が付いてきているという実感もありましたね



辞めるタイミングは当初から決めていたんですか?

なんとなく4年間は辞めないという自分なりのルールがありました。

何も得るものがないと思えば1ヵ月でも2ヵ月でもさっさと辞めてしまいますが、学ぶべきことがあると思えるところでは最低でも4年はいなければと思うんです。

3年いると全体がつかめるようになりますよね。

自分のポジションも築けるし、その分飽きてもくる。

だからこそ、そこから自分との戦いが始まると思うんです。
そこを乗り越えられるかが重要だと思うので、4年はやるべきだという結論になるわけです。

仕事が増えていって・・・どのあたりからスタッフの採用を決断したんでしょう?

法人にする前のことですね。

うちのHPを介して知り合った方が、結果的に最初に採用したスタッフとなりました。

ちょっと話は逸れますが、当時のボクは、自分で撮影した写真にポエム的な、詩のようなコトバを描いて毎日一個HPにアップすることを自分に課していました。

実はいっしょに仕事をしていたライターが、こちらの指示通りの文字数で必ず原稿をあげてくれることに感動して、触発されちゃったんです。それから自分でも文字数制限を設けて、その通りに詩を書くようになったんですね。

そのうち、それを見てくれる人が増えてきて、アクセス数も伸びてきました。良い出来のときはコメントをくれる人まで出てきて・・・そんなフォロワー的な人の中の一人が、最初のスタッフになる人物だったというワケです。

彼とは徐々にコミュニケーションをとるようになり、写真やデザインについてお互いに良いと思う感覚が似ているなぁと感じたことが採用のカギでしたね

当時はとにかく忙しく走り回っていて電話番が欲しかった時期だったので・・・まずはそこからお願いしたんです。

でも、電話番だけでは食べさせられないですよね。

だから最初の頃は知り合いの会社に出向してもらったりしていました。

それからは順調に仕事が増えていったので、もう一人、今度は若いライターを採用したんです。その二人が今も残る初期メンバーです。

最悪な時代を乗り越えるたびに
より良い行いを習慣にしていくようになりました。

なにげにハッピーつづきなストーリーに思えるんですが?

いやいや、最初の独立あたりまではマジでひどかったですよ、ボクの人生は。(笑)

デザイナーといいつつ全然食えないから当時3人でルームシェアをしていたんですけど・・・バーテンの女の子と美容師の男の子と、一人4万円ずつくらいだったかな?

家賃を出し合って暮らしていましたが、酒もタバコもとにかくヘビーで、そのくせお金はない。
だから女の子を金づるのようにしか思っていない。

一日中部屋でゲームや漫画にふけっている・・・しかも自分の性格も最悪だったんです、本当に。

今でも、その当時の自分と似たような生活をしている人とか見るとイヤですもん。
信用できない。(笑)

やっぱりそれではいけないとどこかで思って、病気で酒を飲まなくなった流れでタバコもやめて、ゲームも漫画もやめて、テレビまで捨てちゃって。

一つ一つ改善していくと、どういうワケか仕事も人間関係もどんどん良い方に向かっていきました。体調まで良くなっていくし、周りに良い人、ステキな人が増えていったんです。

自分が心を入れ替えて良い人間になったという意識は全くなかったんですが、良いことを少しずつ取り入れていくと、きっとそうなっていくもんなんだなと思うようになりましたね。



そんなことがあるんですね!?

ええ、だからというワケではないですが、それからは習慣も変えていきました。

例えば、朝の儀式として、「自分が水を飲む前に母親の写真に水を供える」「窓を開けて風通しを良くする」「玄関の床を粗塩で拭いてキレイにする」・・・とか。

うちのお婆ちゃんが言っていたんですが、亡くなった人は水に困っているからのどが渇く。
のどが渇くと化けて出てくると。(笑)

水を供えるのはそのためです。

毎朝やると決めたことを実行するというのは、キレイになるとか言うことよりも、続ける根性だったり、実行すること自体に意味や価値があるんじゃないかと思います

だから会社でも、スタッフのみんなには身の回りの整理を毎朝やることの大切さを知ってほしくて、口うるさく言っていますね。

余談ですけど、以前、仕事が忙しすぎてしんどくなった時があって・・・わざと玄関を汚れたまま放置してみたんです

これ以上仕事が来て欲しくなかったので。(笑)

そうしらた本当に仕事が来なくなっちゃって。それで慌ててキレイにし始めましたことがありました。

そう考えると、やるべきことって朝に集中しているから、やっぱり朝は早起きした方がいいなと思うようになりました。

お陰で会社員時代から遅刻ってしなかったですね。

人より先に来て、人より後に帰る毎日。
それを徹底していました。

そうすれば誰もボクに文句言えませんからね。(笑)

仕事を通じていろいろな見識を広げられる。
常に勉強できるって、嬉しいし楽しいですよ。

では、いま課題に感じているのはどんなことですか?

スタッフに注意したり、叱ったりすることは本当に難しいですね。

でも、言わなければ彼らの欠点や傷口が広がっていく一方ですし、言うときはこちらに感情のコントロールが求められます

やっぱりその時の気分とか体調によって、ついきつい言い方になってしまうことがあるので。

お金の心配を抱えている時だってありますしね。

ただ、伸びていってほしいという本音があってのことなので、そうしたことも含めてお互いの相性なんかも試用期間で確認し合えるといいなって思います

一般的には試用期間って3ヵ月とされるケースが多いですけど、実際3ヵ月でそこまでは分かりにくいですよね。

だから6ヵ月くらいの時間をかけて見ていくようにしています。

もちろん、自分のコンディションに左右されずに伝えられるようになることは一番の課題だと思っていますよ。(笑)

デザインの世界で働いてみたいという人にアドバイスするとしたら?

仕事はたくさんあるかもしれませんが、ギャラは安いと思います。
特に最初は。

だからたくさんの仕事をこなさなければなりません。

その時に大切なのは、会社で働いている自分が、もしフリーランスだったら?という意識を常にもつことではないでしょうか。

例えば、うちの会社では、それが分かりやすいように一人一人に個人の売上げを数字で提示し、伝えるようにしています

日頃のハードワークが、結果としてどうなっているのかを知ることは大きなモチベーションになるからです。

その意味でも、会社にいる間に日常的な経費がどれくらいかかっているか、そういうことに目を向けておくことはとても大事だと思います。

要するに独立志向ですね。

デザイン会社は、そういう気概をもった人材が軸となりつつ4・5年くらいで入れ替わっていくのが理想だと思うんです、経営面も含めて。

逆に言えば、ずっと会社にいますというスタンスでいられたら・・・キツいですよね。

当人の将来を考えても良いことはないんじゃないでしょうか。



デザインの仕事の魅力とは?

好きで働けている人は楽しくてしょうがないでしょうね。

その代わり、仕事とプライベートはきちんと分けたいという人には、少なくともデザイナーは難しいかもしれません。

時間があればデザインに関わることをやっていたいという思考の人の仕事かも

好きでやるならこんな楽しい仕事はない、という仕事ですね。

ディレクター志望であれば、ある程度効率的な思考は必要だと思うのでアリだと思いますけど。

どちらにしても、いろんな業界のことを仕事を通じて知ることができるというところは本当に魅力ですよ

幼稚園から大学、会社、あるいは医療、食品・・・それぞれの世界の見識が広がるのは、とても嬉しいし楽しいことです。

仕事ごとに毎回勉強できますからね。

なるほど、公私にわたる濃密なストーリー
ありがとうございました!



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