こだわりの酒肴に誘われて、
食通たちがこっそりと訪れる大人好みの隠れ家割烹。
T.Hさんのお店に行って
いろいろインタビューしちゃいました!
少しずつ常連さんとして根付いていただけるように。
とにかく質の良い食材を厳選しているところですね。
特に生ものから焼き物の魚まで、グレードの高いものを仕入れ、和食としての仕事を施したうえでお出ししています。
具体的には?
白身魚を少しねかせてからお出ししたい場合は、入荷段階からそのための処理を施してもらったものを仕入れています。そこからさばいて、さらなる仕事を施す感じですね。
青背の魚をレアな状態でご提供する際は、48時間冷凍して微生物を処理するだけでなく、酢でしめすぎない代わりにいくつもの工程を加えたり・・・魚の鮮度だけでなく、こだわりの技法を駆使しています。
私は和食出身なので河岸との信頼関係もありますから、そうしたところを大切にしながら、それぞれの魚の持ち味を引き出し、ご提供しています。
新鮮な魚に、さらに和食の仕事を施しているわけですね?
そうですね。安全に鮮度を保ちつつ、季節や魚の状態に合わせて、最適な形で召し上がっていただきたくためには、そうした手間は不可欠なんです。
それを、和食に寄り過ぎず、ほどよく居酒屋の体でご提案できるように努めています。
お店を続けていくうえで、どんなことを大切にされていますか?
やはり一番は、お客様との関係性ですね。おいしいものを出すこと、仕事をきちんとこなすことは、飲食店としては当たり前ですから。
お客様との関係性を深めていく過程で、その方の趣味嗜好を把握し、また体調なども含めてリアルタイムでアプローチできるように心がけています。
オープンキッチンにしている理由がそこにもあります。その意味で、一度来ていただいたお客様に常連さんとして根付いていただくことが理想ですね。
ひとりひとりと向き合っていくことが大事なんですね?!
その通りです!
理想の店を思い描いて。
独立する以前は、和食・炭火焼きの店に勤めていましたが、その前は音楽の仕事をしていました。
音楽ですか?!
ええ(笑)歌とピアノをやっていたんですが、特に曲作りにどっぷりハマっていた時期がありまして・・・だんだんとその先の可能性を考えるようになりました。27歳くらいの時ですね。
そのあたりから音楽を続けつつも料理人の道を模索しはじめたんです。
なるほど。飲食店で働きはじめた当初のことをお聞かせください
最初はホールの業務から担当したんですが、実際、お客様に直接プレゼンできるのはホールだけだと分かり、今では本当に良い経験ができたと思っています。
今の店も、オープンキッチンにすることで自分の声が届くようにしていますしね。また、その距離感にもこだわって、現在の15坪ほどのキャパに決定しました。
ホールの経験が生きているんですね。
そう思います。その後、お蕎麦屋さんを経て和食・炭火焼きのお店に入りました。和食を堪能していただいた後、最後に蕎麦で締める・・・そんな理想のドラマ性を想定していたんです。
自分のビジョンに合わせて修行する店を選んだですね?!
ですね!
ますます奥が深い料理人の世界。
魚の担当だけで1年かかりました・・・。社員は大将と私だけ、あとはバイトが2名という店でしたので、あのころは本当に寝れなかった(笑)
特に飲食店は大変だと聞きます
大変です(笑)私の担当は、コース料理と一品ものが混在していたので、前菜、すり流し(お椀)、土鍋ご飯・・・これらとともに掃除、経理まで全て終わらしてから深夜に個人的な料理の練習。
そのうえ週に2回は築地へ行く、そんな具合でした。
確かに寝るヒマありませんね
でも、そのペースで取り組めば、たいていの人は数年で相当のことが身につくと思いますよ。
これから料理人を目指そうという若者にも、メッセージをお願いします
具体的な話をすると、例えば料理をつくる際は、最終形のビジョンを明確にすることですね。
「理を料る(ことわりをはかる)」のが料理ですから、目指すテイストに対してのプロセスをきちんとおさえないと一向に腕前は上がらないと思います。
といいますと?
どこを一番ひきたてたいのか、どんな見え方にしたいのか、そこを明確にしなければ、具材をどう使って、どういう形状・厚さで切りつけるか、加熱量は?調味料の分量は?・・・すべて見えてきませんよね。
イメージによって作り方も違ってくるんですね
そうなんです。あと、和食における習いというものも最近はあまり考えられていない気がしますね。
「習い」ですか?
和食には、その昔の陰陽師にも通ずるような伝統的な習いがあります。
「包丁の表側が当たった面をお客様から見て手前にくるよう盛りつける」、焼き物なら「魚の腹側の銀色の部分がお客様から見て右側にくるようにお出しする」などが分かりやすい例でしょうか。
そんなことまで徹底されてるんですか?!
もちろん、魚の表裏によってはそれができない場合もありますが、その際にはまた習いに従って別のやり方で対応する・・・という一種のルールのようなものがあるんです。
ところが最近は簡略化されてしまって、何でもブツブツに切って、はい終わり。という傾向が感じられるんですよね。
料理人の皆さんも知らなくなってきているってことでしょうか?
それもあると思います。和食を世界遺産だなどと持ち上げるなら、せめてそこに携わる人間は、自分も含めてですが、そうした習いくらい知っておくべきですよね。長く続けていくためには、そのあたりを考えていく姿勢があっていいのでは、とつくづく思います。
日々是学習ってことですね。
ただ、知ろうとしてもなかなか一冊にまとめられた書物のようなものが見当たらないので・・・あったらとても有り難いですね。
大変なお仕事ですね
かもしれませんね 笑
値段が高くても、安くても、満足を得ることはできると思います。大事なのは、何を重視して選ぶかですよね。
ボクが好きなお店は・・・飲み物も含めて1人6,000円で満足させてくれるとこですかね。味覚的にも、接客・サービスなど精神的にも。これって実はありそうで意外と少ないんですよ。
なるほど。プロが見れば、知らないお店でもここで分かる、といったポイントなどはありますか?
我々同業者は、メニューの写真と値段があればたいていの察しはつきますね。その上で料金にお店の心意気を感じたら、ボクならまず入ります。(笑)
お蕎麦についても同様ですか?
蕎麦は原材料がすべてです。つまり調理でおいしくすることはできないので、うちでは国産の蕎麦粉を使用し、徹底して素材と手打ちにこだわっています。
正直、機械打ちで中国産の蕎麦粉につなぎたっぷり・・・なのにまともな料金を取るお店も見受けられます。
水の量、処理の時間、そして蕎麦本来の味・・・ここにこだわっているところは素晴らしいお店だと思います。ちなみに当店はそうしています(笑)
では最後に、ご自身では、次はどんなお店を展開したいとお考えでしょうか?
もうちょっとお手軽な和食と日本酒のお店ですかね。客単価を少し下げつつスタッフを増やす感じで。
一番大事な仕込みは自分でやりますが、店の顔としてお客様とコミュニケーションをとるスタッフやホール係などは若手を起用して・・・そんなお店づくりをしたいと思っています。
こちらこそ!
こだわりの品々をちょっとだけご紹介します!
※コメントは編集部のごく個人的な感想ですが本音です。